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薄膜サーミスタ

はじめに

従来型のNTCサーミスタはマンガン、コバルト、ニッケル、鉄などからなる複合金属酸化物を焼結させて出来上がったセラミックス上に電極を形成しチップ化したものがベースになります。
薄膜サーミスタ(FTシリーズ)はSEMITECで培われてきた従来型サーミスタの生産・管理手法とサージアブゾーバー(VRD)や定電流ダイオード(CRD)などのSiウエハーをベースとした半導体プロセス技術を融合させ、世界に先駆けて製品化した独自のサーミスタです。

薄膜サーミスタ”FTシリーズ”

FTシリーズは薄いアルミナ基板(標準0.15㎜t)の片面上にNTCサーミスタを形成したものになります。構成される電極やサーミスタの厚さはサブミクロンオーダーでフォトリソグラフィーなどの半導体技術により微細化した均一で生産性に優れたサーミスタです。
薄膜サーミスタは他のサーミスタに比べ薄く体積も小さいためにサーミスタの熱容量が小さく、これまで設置測定ができなかった様な狭い場所での高速の温度計測が可能となります。
FTシリーズは、接続法(はんだ付け、ワイヤーボンディング,導電性接着剤)に適した電極タイプを用意しております。
現在1005(1.0×0.5㎜)タイプ,0603(0.6×0.3㎜)タイプをリリース中です。

実施例

FTシリーズの特徴を生かしたかした実施例をあげます。

電子体温計

薄膜サーミスタを使用した、FT-ZMは高速測定の電子体温用として開発されました。
電子体温計用に使用される従来のサーミスタはリードタイプで感熱部は絶縁を目的にガラスや樹脂でコートされ楕円形状となっています。
一方のFT-ZMは小型の薄膜サーミスタFTの片面にリード線を設けた構造です。
FT-ZMは絶縁部(アルミナ)が平面なので体温温計のプローブにFTの絶縁部を面接触させることで、サーミスタとプローブの熱的結合が向上し、高速での測温が可能となります。

カテーテル用温度センサ

薄膜サーミスタを使用したFμサーミスタはサーモダイリューションカテーテルに採用されております。
サーモダイリューションカテーテルは心臓の肺動脈に挿入して心拍出量を測定する検査用のカテーテルです。
測定原理はカテーテルを介して低温に温調された生理食塩水を心臓に定量供給し、その下流ではカテーテル内に配置された温度センサで血液の温度をモニターし、温度が変化し始めてから正常に戻るまでの時間から心拍出量を算出するもので、温度センサには高応答性や高温度精度が求められます。
Fμサーミスタは小型の薄膜サースタの電極の配置を変えることで細い径の穴などへの挿入可能なカテーテルに適した極細リード線付サーミスタセンサになります。

 

ガスセンサ

薄膜サーミスタと多孔性のガス分子吸着材料を組み合わせることにより、ガス選択性の高いSEMITEC独自のガスセンサを開発しました(特許取得済み)
ガスは、水素、ヘリウム、アンモニア、水蒸気のみに敏感反応します。
水素ガスに関しましては、1ppmのガス濃度の検出に成功、呼気や皮膚ガスなどの医療用途向けに使用が見込まれております。

 

非接触温度センサ”NCセンサ”

薄膜サーミスタを2個使用し、SEMITEC独自の非接触の温度センサ「NCセンサ」を開発しております。
サーミスタを使って物体の温度を非接触で測定するには、被測定物から赤外線を受ける側のサーミスタの熱容量を小さくして微小な赤外線の変化に追従できるようにする必要があります。
また、温度を非接触で測定する場合、被測定物から赤外線を受けるサーミスタ(受光サーミスタ)と赤外線を受けないサーミスタ(補償用サーミスタ)の差から温度換算しますので2つのサーミスタは同じ環境に置いた場合に特性が近似している必要があります。
薄膜サーミスタは半導体プロセスを使い生産しているためウエハー内での特性の似通ったサーミスタのペアリングが容易であり、さらに熱容量も小さく非接触温度センサとして適しています。
プリンタやコピー機などの熱定着用ローラーの温度制御用途に使用されております。

 

接触式温度センサ”定着センサ”

薄膜サーミスタの特長を生かし、プリンタやコピー機の熱定着ローラーの温度制御用に開発されたのが接触式の温度センサ、定着センサです。
定着センサのシリーズとしてFSセンサ、HFセンサがあります。
熱定着ローラーは150℃~200℃といった高温で温度制御する必要があり、温度上昇も非常に速いので、素早く温度をとらえる必要があります。
また、ローラーは回転しており接触させたセンサが傷をつけてしまい結果としてプリント品質を落としてしまう問題もありました。
SEMITECの定着センサは非常に小型でかつ高温に耐えられる薄膜サーミスタを使用、さらに接触面は平らにできる のでそれらの問題を改善できるセンサが実現したことにより、多くの採用実績があります。

パワー半導体

様々な電気機器や昨今では電気自動車(xEV)などに電力の供給を担うパワー半導体。
このパワー半導体の温度センシングにSEMITECの薄膜サーミスタが注目されています。

例えばEV車であれば直流のバッテリーをパワー半導体が搭載されたインバータで交流に変換して駆動モーター(交流)を動かします。
これまで、パワー半導体の主な材料はシリコン(ケイ素 Si)でしたが、半導体部品の中でも大きな電力を扱うパワー半導体は、動作を行うための電力消費に加え、電流を流した際に一部の電力が熱として逃げてしまう(電力損失)問題がありました。そこでシリコンよりも、電気を通しやすく、電力損失が発生しにくい新しい半導体材料として、SiC(炭化ケイ素、シリコンカーバイト)、GaN(窒化ガリウム、ガン/ガリウムナイトライド)を用いたパワー半導体が開発され、市場への投入(SiC-MOSFETなど)が始まっています。
これらのパワー半導体で、EV車の更なる高効率化が実現、小型化・軽量化にも寄与し結果として航続距離の延長に役立っています。
これまでのシリコン(Si)を使用したパワー半導体は耐熱温度が150℃であるのに対し、SiCやGaNを使用したパワー半導体は耐熱温度が250℃であるため、より高い温度で動作させることが出来ます。
パワー半導体を効率よく働かせるために、温度センシングは不可欠であり、これまでは一般的な面実装のサーミスタ(チップサーミスタ:耐熱温度150℃)を用いるケースが多いのですが、SiCやGaNを使用したパワー半導体の動作温度は高く(250℃)、一般的な面実装のサーミスタ(チップサーミスタ)は使用出来ませんでした。
そこで、次世代パワー半導体用途として、薄型、小型、高耐熱(~250℃)が特徴であるSEMITECの薄膜サーミスタが注目され始めているのです。


パワー半導体用薄膜サーミスタ(例)

今後の展開

今後もSEMITECは、薄膜サーミスタの更なる小型化、高精度化を進めて、これまでできなかった微小空間や非常に小さな被測定物の高速、高精度の温度計測を実現して参ります。
更に薄膜サーミスタの特長を生かし、様々な技術や新材料を組み合わせることでSEMITEC独自の新しいセンサ開発に挑戦し続けて参ります。